第3回 砥の粉工場見学


 山科についてご紹介していく「山科めぐり」。3回目の今回は、砥の粉(とのこ)をつくっている進藤譲商店株式会社様にお邪魔してきました。 

「砥の粉(とのこ)」とは?

▲進藤謙商店の砥の粉には赤・白・黄の3種類がある。もともと赤が漆の下地として使われており、白は白木に、黄は桐にとくに使われるという。
 砥の粉とは、木材の加工で用いられるきわめて細かい粉です。
 水を加えて木に塗り付けることで、木材の「目止め」(※1)をするのために用いられます。
 また、漆の「下地」(※2)に用いられるため、漆器屋さんにとってなくてはならないものでもあります。
 かつては学校教材として使われており、50代以上の人は「技術」の時間に触れたことが多いとか。

 砥の粉生産は200年ほど前から、漆の下地のため始められました。
 往時は一大産業であり、西野山地域には30~40軒の砥の粉屋さんがあったとか。
 しかし、漆器がプラスチックに取って代わられるにつれて砥の粉産業は衰退し、今では全国で山科でしかつくられていないとのことです。

※1 「目止め」:木材表面の小さな孔を埋め、均一な面にする処置。塗料が下地に過度に吸い込まれることを防ぐほか、木材の質感を出す効果や耐用年数を上げる効果がある。

※2 「下地」:漆器づくりで、器の形が完成したあと、表面を整えて漆が塗れる状態にする工程。


砥の粉をつくる工程1 採集

 山科で「砥の粉」がつくられるようになったのは、砥の粉の原料となる土が山科・西野山地域にある「稲荷山」で豊富だったから。 
 稲荷山から、赤・白・黄、それぞれに適した土をプロが見分けてユンボなどの機械で採ってきます。

▲砥の粉の原料になる頁岩。きわめて風化しており、触るだけで細かい土にばらけてくる。

▲稲荷山からとってきた原料の山。左が黄、右が赤の砥の粉になるもの。白は山の下のほう、黄は山の中腹、赤は山の頂上近くから採られるという。


砥の粉をつくる工程2 粉砕

 まずは細かい粒にしていくために、原料を砕きます。
 原料、水、そして粉砕用の硬い石を下のようなトロミルに入れ、10~12時間ほどかけて回転させることで細かい粉にしていきます。
▲トロミル。かなり大きく、一度に1tぶんの岩が処理できるとのこと。
▲トロミルの中に入れる粉砕用の硬い石(上二つ)と、トロミル壁面に張る岩(下)。いずれも日本に条件を満たすものがなく、外国から輸入しているという。


砥の粉をつくる工程3 濾過、絞る

トロミルで砕いたあと、網に通して濾過させます。
その後、沈殿したものを汲み上げ、フィルタープレスにかけて水分をとります。
▲フィルタープレス(絞り機)。濾過した液体を何枚も布を張った中に通し、砥の粉を絞り出す。40~50分ほどかかるとか。
▲濾過器。ここで、粉砕した砥の粉を網に通し、濾す。

砥の粉をつくる工程4 乾燥

 絞り出された砥の粉は、天日乾燥させます。
 完全に水気を抜くのに、1~2カ月ほどかかるとか。
▲パレットに乗せて乾かしているところの拡大図。これを粉末状にすると砥の粉になります。
▲乾燥させているところ。昔は広げていたので広大な場所が必要だったが、今は棚に乗せている。

砥の粉をつくる工程5 計量

 最後に、粉末状に加工し、軽量・梱包することで商品としての砥の粉になります。
 文化財や伝統工芸品に使われてきましたが、身近なところでもホームセンターのDIYコーナーの木工塗料へ行けば山科産の砥の粉が並んでいます。
▲できあがった砥の粉(地の粉)。進藤謙商店のWebサイトでも注文を受け付けている。
▲粉末状に加工し、自動で計量してくれる機械。


進藤謙商店(株)Webサイト:http://www.yamasina-tonoko.com/index.html

2020年06月23日